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24  シルバーウイングギルド会館

Author: KAZUDONA
last update Last Updated: 2025-11-28 15:42:43

 翌朝。宿屋鹿の角亭のシングルの部屋のベッドの上で目が覚めたカリナは、起き上がるとぐいっと伸びをして身体の調子を確認した。まだ寝起きでぼけっとしてはいるが、魔力も体力もしっかり回復している感覚がある。

 しかしステータスが見えないので数字上での確認は不可能。自分の身体を動かすことで状態を確かめるしかない。ゲームとしては不便である。自分のHPやMPが見えない上に身体能力の数値もわからない。クレーム待ったなし、いや大炎上するだろう。

 だが現実世界にはそもそもそんな数値を示すものなどない。そう考えれば、今の自分が置かれている状況が現実なのだと実感させられる。一通り身体をぐいぐいと動かして調子を確認した後、アイテムボックスから衣装を取り出して身に付ける。今日もまたひらひらのフリルやリボンがたくさん付いた、まるで魔法少女のような衣装に身を包む。いい加減、こういった衣装にも慣れてきている自分がいる。姿見で着こなしを確認し、今の少女の姿の自分には似合っているのだから仕方ないかと考えることにした。

 備え付きのトイレで用を足し、洗面台で顔を洗う。身だしなみが整ったところで、お腹が空いていることに気付く。階下に降りて朝食を頼むことにするかと思い、忘れ物がないかを確認してから部屋を出た。

「本当、リアルに腹が減るよな……」

 階段を降りながらそんな言葉が口をついた。一階にある食堂には宿泊客や朝食を食べに来ている客で既に賑わっていた。

「おはよう、カリナちゃん。よく眠れたかい?」

「ああ、おはよう女将さん。よく寝れたよ。朝食をお願いしたいんだけど」

「はいよ、カウンターでいいかい?」

「構わないよ」

 テーブル席には集団客達が陣取っている。独りのカリナはカウンター席に腰掛ける。暫くすると、朝食がトレイに乗せられて運ばれて来た。

「はいよ、お待ちどうさま。しっかり食べて行くんだよ」

「ありがとう。いただきます」

 今朝の朝食は和食だった。ライスに焼き魚、漬物や卵焼きなど、日本人にとって馴染み深いメニューが並んでいる。世界観は中世の洋風ファンタジー世界なのだが、食べられる料理は和洋折衷何でもある。こういうところはありがたい。カリナ達同様に、この世界にはまだ出会っていないPC達がいるのだろう。彼らがこの100年の間、こういう文化を育てて来たのかもしれないと思いながら、出された料理を口にする
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